鮮やかな黄色で寿司に彩りを加え、魚を調理する他のネタとは異なる甘み、食感が愉しめる人気ネタ、玉子焼き。昔から「鮨通は玉から」などとまことしやかに言われるように、店ごとに味付けや焼き方、握り方などの違いがはっきり現れ、玉子焼きですし職人の腕が分かるともいわれる寿司ネタなのだ。
回転寿司店などで馴染みが深いのは、出汁巻きの握りだが、本来の江戸前での握りの形は、「鞍掛け」だ。厚焼きの玉子焼きを正方形に近い形に切り、それをさらに半分に切ったら、その中央に切れ目を入れ、シャリ、おぼろの上に、玉子焼きを載せる。このまるで馬の背に載せた鞍のように見えるのが「鞍掛け」だ。今となっては、江戸前の寿司店でしかお目にかかれない、昔ながらの玉子焼きの握りだ。
そうは言っても、店ごとに違いがあるのが、玉子焼きの特徴だ。店によっては、鞍掛け以外にも、薄焼きの玉子焼きで、シャリを包み込むように握る「柏づけ」と呼ばれる握りや、出汁巻きに切れ込みを入れてシャリを挟み込むなど、形はさまざま。ただ、実情としては手間を省くために、市場で売られている出来合いの玉子焼きを使う店も多くなっている。そうなると「鮨通は玉から」という言葉もなかなか当てはまらなくなってくる可能性はあるが、だからこそ、丹念に自前の玉子焼きを作り続ける寿司店に出会ったならば、味はもちろん、各店の握りの違い、こだわりを楽しみたい。
出汁巻き:溶き卵に昆布や鰹などの出汁を加えて短時間で焼き上げた玉子焼きのこと。個性豊かな味わいの握り寿司をひととおり口にした後は、この甘さが心地よく、締めの一貫にも向く。
厚焼き:芝海老や魚のすり身、山芋を入れてじっくり焼き上げる、まるでカステラのような玉子焼きのこと。手間が掛かるので、老舗寿司店でわずかに姿をとどめる程度で凋落の一途をたどった頃もあったが、最近寿司業界を牽引する30代の若手職人たちが作るようになってきた。それと、もともと寿司屋のデザート的存在だった玉子焼きだが、昨今のそれは、デザート化がさらに顕著になっている。
柏づけ:それぞれの店の味があり、あっさりとした淡い味わいの店もあれば、みりんや塩を多めに使い、味が濃い店もある。つまみとして出すか、握りで出すかで、甘味や塩気を変え、作り分ける場合もある。
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